お酒の香味は、主に仕込に使われる米・酵母・水に左右されます。このうち酵母については、現在各蔵元や研究機関等で純粋培養された酵母を使った仕込が一般的で、千代緑では秋田流花酵母(AK−1)、協会9号酵母を主に使用しています。しかし同じ品種の米、同じ酵母で仕込んでも各蔵によって香味の違いがでてきます。
酵母菌は自然の中に浮遊したり、果実や花の蜜に生息していますが、酒蔵の天井や梁、土壁には昔から蔵に住みついている『家つき酵母』がいます。明治時代までは自然にこの家つき酵母が米を仕込んだ桶に入って繁殖するのを待って酒造りをしていました。そのため蔵によって異なる家つき酵母がその蔵独特の香りと味を醸しだし、良い酒ができると家つき酵母はまるで神様のような存在でした。今では純粋培養の酵母を大量にタンクに入れて仕込みますので、安定した品質の酒ができますが、そのタンクに家つき酵母が入り込み、その蔵特有の香味を生みだしています。
千代緑の仕込蔵は創業の三百五十年ほど前より幾度か建替えられ、現在の仕込蔵は九十年余の時を経ておりますが、その間ずっと、蔵人と代を重ねた『家つき酵母』の協同作業によって千代緑を醸し続けてきました。千代緑のやさしくおだやかな味わいの酒質は、今後もこの『家つき酵母』によって引き継がれてゆきます。